蔦木圭悟氏からのメッセージ 「II類で学んだことを活かしてモノ作り道を極めよう!」

蔦木圭悟氏からのメッセージ
「II類で学んだことを活かしてモノ作り道を極めよう!」

ローランド株式会社 蔦木 圭悟 氏
ローランド株式会社 蔦木 圭悟 氏

高橋(弘)研究室(II類・電子情報学プログラム) 2011年3月に修士課程卒業
電子楽器・電子機器メーカー勤務

 

大学で習んだことは社会で役立てられるだろうか?」
——そんな疑問を持つことはないでしょうか。

それは一人ひとりの考え方次第で将来が変わるということを、電通大の受験を考えている皆さん、そして類選択を控えている在学 1 年生の皆さんにお伝えしたくて、この場をお借りしました。

私から見た電通大って、いい意味でヘン

電通大の正門から入ると、噴水のあるこの光景が出迎えてくれた。
電通大の正門から入ると、噴水のあるこの光景が出迎えてくれた。

私が進学したのは、今でいうⅡ類の前身にあたる学科です。もともと私は音響に興味があって、暗号化とか情報圧縮とかにも関心を持ち始めた高校生の頃、電通大の情報通信工学科という自分にバッチリ合う学科を見つけました。あのときオープンキャンパスで初めて電通大を訪れて、この学科を深く知れたことに、そして緑溢れる構内に、ワクワクしたのを覚えています。

入学後すぐにできた友人は、いい意味で、変わった人ばかり。高校は普通科の出身だった自分だからこそ驚いたのかもしれませんが、趣味や技術面でお互いにディープな話ができるとは思っていませんでした。授業でもうれしかったです。理解しにくいところを友人に訊いたり教えたりすることに加え、この技術がすごい、この数式の式変形には脱帽だなど、その場で仲間と新しい発見に共感できる素晴らしさを体験しました。

科学実験のレポート作成はなかなか大変でしたね。土日はめいっぱい遊ぶほうでしたので、平日にがんばっていました。自宅でレポートを作成するときは、よく友人とはリアルタイムにメッセージを交換し合いながら進めていたことが懐かしいです。自分の試したことや、根拠を示しての考察と結論を正確に他人に伝え、納得してもらうスキルはエンジニアとして重要なので、当たり前として捉える、そのセンスを養うことができたのはちょっとした宝物ですね。

手に入れたのは、学びたい熱意に応えてくれる環境

皆さんに実践してほしいことがあります。授業に臨むときはぜひ、「世の中でどのように役立っている技術なのか」「どういう応用が考えられるのか」という側面を意識し、調べてみたり、あるいは想像してみたりしてください。その時間があるかどうかで、授業の内容が頭に定着するかどうかが変わってくるからです。

ちなみに私は、大学で受けてよかったと思う一番の授業が信号処理論でした。小さい頃から家にあった CD プレーヤにイコライザという機能が備わっていて、それがどういう仕組みで音質を変えられるのかが、私はずっと不思議に思っていたのです。大学で学んでみたいと思っていましたし、大学に入ってその技術が信号処理という分野に属すると知ったので、授業のあった水曜日が楽しみで仕方ありませんでした。

音響・音声を扱う研究室なので、音を聴くにもしっかり選定して導入した機材を使わせてもらえる。
音響・音声を扱う研究室なので、音を聴くにもしっかり選定して導入した機材を使わせてもらえる。 新たな機材が導入されるたびに、寄ってたかって試したのもいい思い出。

この興味をさらに膨らませたく、卒業研究は、信号処理をベースに音や映像の研究に取り組む、現・Ⅱ類の高橋(弘)研究室を志望しました。録音された話し声を、聞き取りやすくしたり早聞きしたりするために再生スピードやピッチなどを自在に変える、いわゆる話速変換に関する研究テーマを持ちながらも、それとは別に、卒業した先輩が書かれた論文や、研究室で導入した新しい音響機材に刺激され、気になった技術を自分でも試して追究するような貴重なチャンスもいただけました。

専門知識を多く習得したかったですし、卒業研究の 1 年間だけ研究室に滞在するのも短いだろうと思って、大学院に進学しました。知見が広がりました。3 年間の集大成ともいえる研究成果を、飛行機でひとり移動した先の研究会で、緊張しながら発表したことを覚えています。関心があるからこそ進めてきたこの研究を、発表後に褒めにきてくださった方が会場にいたことは、自信にも繋がり、感慨深かったです。

研究はちょっと横道にそれて、まるで迫りくる 16 のスピーカーたちで楽曲を聴く。
研究はちょっと横道にそれて、まるで迫りくる 16 のスピーカーたちで楽曲を聴く。 どのスピーカーもみんな違う音を出しながら一曲を演出するという、ワクワクする瞬間。

憧れの就職先で、思う存分に知識を発揮

ところで、皆さんは電子楽器を演奏したことはありますか?

私は大好きで、修士課程修了後は長年の憧れだった電子楽器メーカーに入社できました。以来、大学で学んだ音響などの知識を活かしながら、製品に組み込むソフトウェアの開発に携わらせてもらっています。

開発を担当した中でも、この USB DA コンバーターの『Mobile UA』は特に思い入れのある製品のひとつ。
開発を担当した中でも、この USB DA コンバーターの『Mobile UA』は特に思い入れのある製品のひとつ。 聴感上の繊細な音質チューニングを繰り返すにあたっては、学術的な特性測定が大きなヒントとなった。​​(参考:インタビュー記事(外部サイトへのリンク)

仕事でチームを組んで、ハードウェア担当者に仕上げてもらうハードウェアは、うまくソフトウェアと連携して動くことが必須です。ソフトウェア担当も、ハードウェアの動きを知っていれば的確な提案ができますし、ハードウェア担当者に「それは無茶だよ」って苦笑いされない意見が言えるのです。「これはソフトウェアで実現しようか? ハードウェアで実現しようか?」なんて選択肢に出会うことが何度もありますが、お互いのメリット・デメリットを知っていれば、いいとこ取りができます。

そんな中でベスト解を求めるには情報分野の知識だけでは不足で、プログラミング演習がありながら、論理回路、さらには電子回路の授業もあったこの学科の出身だったことが、結果的にピッタリだったというわけです。授業などで身に付けられる“解き方”の幅が広いことが、仕事上で役立っていますし、長らく自分の書いてきたソフトウェアが手のひら上の機械で、調整に次ぐ調整を乗り越えて動き出す瞬間は、感動モノです。電子機器そのものは、コピーややり直しがソフトウェアほど簡単にはできませんが、だからこそ完成させたときの充実感がより高まるのだと思っています。

仕事の進め方を自分流に変えてみる

仕事に取り掛かるにあたって、「この問題は○○○法で解いてほしい」という具体的な指示が与えられることは滅多にありません。ここが私の思う、大学までの授業とは大きく異なるところ。より自主性が求められる研究室とも、ちょっと違います。というのも、開発の仕事は、チーム内で自分が担当した範囲は自分が一番の専門家になることも多く、そうなれば問題とその解き方を自分で見つけ、解いていく必要があるからです。もちろん、同様の仕事をしている他チーム・他部署の先輩に相談したり、会社に蓄積されたノウハウを紐解いたりもできますので、大学までの知識でストップすることはありません。しかし、必要に迫られない学びのチャンスは、社会人になって格段に減ると思います。過去に例のない成果を出すために、“解き方”をいつでも導き出せるヒントを大学までの授業で、実験で、研究で、たくさん吸収していってほしいと思っています。

また、音を扱う仕事なので、「ここの音をもう少し柔らかくしてみたらどうだろう」などと感覚的に繰り返しチューニングするような要素もありますが、その感覚を分析し、理詰めする仕事も大事なのが面白いところ。最近の例では、製品に取り付けたノブをぐりぐり回してみたときに、出力結果をプログラムでどう処理させれば、自然な変化具合に感じるか?そんな課題で悩んだ末、数式を書き始めたときに気づきました。「これは微分して連続になる数式で表せれば解決するや!」って。

このとき、たとえ微分しなくても何かしらのプログラムは書けていましたが、微分という“解き方”を使ったことで満足する答えにグッと早く近づけたのです。“解き方”の引き出しが多いと有利です。繰り返しになりますが、「微分して」とは言われません。正解のない仕事なんて数多ですが、いい“解き方”に早くたどり着けるかが勝負だと思っています。

研究室時代のちょっと脱線した日に得られた知識も重宝することがあって、会社に入ったあとで「あのとき試した技術が使えずはず!」って思う場面に巡り合うと、うれしくなります。ポジティブな記憶のほか、「この方法は簡単そうに見えて、修論でやったときは試行錯誤の繰り返しだったんだよな」なんてネガティブな成果も思い起こして、仕事の進め方を選ぶことがあります。特に、卒論や修論に関連してじっくり調べていた事柄は今後も活用できそうなので、大事にしていきたいですね。幅広く興味を持ち、時間をかけて研究できたことに感謝しています。

大学院時代にできた幅広いチャレンジ

幅広くといえば、研究室ではこんなエピソードもあったので、紹介させてください。

人の声は話す速さ(話速)が違うと話し方が変わるという面白い傾向を掴むために、研究室独自で構築、公開した音声データベースがありまして。このデータベースは当初、研究室メンバー数名分の声を録音したデータだけで構成されていましたが、のちにプロのアナウンサーの方々をはじめ、なんとアニメ声優の事務所さんにもご協力いただけて、一気に華やかさを増すことができました。着々と自分たちで進めてきた準備期間も含めて、研究室で音声収録を実施したのは良い思い出です。

原稿提示システム「ReCoK5」を走らせながらの音声収録風景。
原稿提示システム「ReCoK5」を走らせながらの音声収録風景。 収録では、マイクを向いて、ReCoK5 によって色付け表示された画面上の原稿を読み進める。

収録に際しては「ReCoK5」という専用の原稿提示システムを作りました。読みはレコックファイブ。カラオケ画面のように、歌詞ならぬ原稿が表示されながら時間経過とともに色が変わっていくので、色を追いながら読み上げることで自然と望みどおりの話速で発した声を収録できる、画期的なシステムになっています。

「こんなのあったら便利だよね」という着想に始まり、試しに作ってみたら研究室内で大ウケ。研究そのものとは少々違う一大プロジェクトにも自分のプログラムが寄与できるとは、当時得た達成感は相当なものでした。守備範囲が広いからこそ様々なことにチャレンジできる学科ならではの、自分のスキルを活かせる機会に多く恵まれたのだと感じます。

もちろん、話速の知識も含めて、信号処理は今でも仕事上で重要なツールになっています。一例として、私の生まれた頃に誕生したというアナログ式リズムマシンの、音色ひとつひとつをディジタル処理で丁寧に再現させる仕事では、必要不可欠でした。実は、その仕事でできた製品のプロモーションビデオにはエンジニア役としてこっそり登場しているのですが、発売当時、余暇に先輩たちと立ち寄った楽器店さんでは入口でこのビデオを流していただいていたことが驚きで、まるで旅先でもうひとりの自分に出会ったかのような不思議体験をしたのは、今でも心に残っていますね。

Ⅱ類でチャンスを掴もう

進路を選ぶにあたって、その大学、その学科、その研究室で何が学べるのか、何ができるようになるのかを調べることはもちろん重要で、その一方で、自分自身は何が好きなのか、何をやっているときに楽しいと感じるのかを分析することも大事だと考えています。簡単に入れそうだとか、パッと見聞きしたときのイメージだとか、先輩から聞いた噂話だとかに必要以上に惑わされてしまうかもしれません。でも最終的に「ここを選んでよかった」と思えるためには、本当に自分のやりたいことなのかを基準に選ぶことが一番なのではと思うのです。

「身に付けた技術を社会で活かしたい!」
——ここまで読んでそう思ってもらえた方はちょっと立ち止まってみて、ご自身が心から「これだ!」と思える進路を選んでいただけたらと思います。

モノづくりに挑戦したい気持ちがあれば、Ⅱ類はいかがでしょう?技術を活かせるチャンスが、すぐ先の未来で見え隠れしているはずですよ。