在学生への
お知らせ

西方夏子からの
メッセージ

「モノ作り」へのこだわりを
持たせてくれた電通大

株式会社マネーフォワード 西方夏子 氏

株式会社マネーフォワード 西方夏子 氏

技術の進化が驚くほど速い今の時代に、自分の強みを作るとしたら何を選びますか?

個々の「技術」そのものはすぐに陳腐化します。
それよりも、自分をアップデートし続け、貪欲に挑戦し、そしてそれらの変化を楽しめる力こそ、今求められていることだと感じています。

私がそんな基礎的なサバイバル力を身につけたのは、大学時代だったように思います。
これから大学選びをするみなさんには、「就職のため」や「スキルアップのため」だけでなく、
もっと根底にある自分の「適応力」や「執着心」を高めるための選択をしてほしい。

その一助になればと思い、私のこれまでの経験をお話しする機会をいただきました。

電通大の6年間で得たもの

 高校生の頃は、数学や物理が好きで、漠然と理系の大学に進学したいと考えていました。正直なところ、具体的な将来の夢があったわけではなく、好きなことに打ち込める環境を求めていたのだと思います。電通大に入学してみると、授業の専門性や厳しさがいい意味で自分に合っていると感じました。高校時代は一夜漬けも多かったのですが、大学に入ってからは、興味のある科目が多かったこともあり、計画的に試験勉強をする習慣が身についたのです。
 4年生になると就職か進学かで迷いましたが、研究室で過ごす日々がとても面白く、もっと研究を追求したいという気持ちから大学院へ進みました。今振り返ると、何にでもチャレンジできたことが、私にとって非常に面白かったのかもしれません。就職してからはソフトウェアエンジニアとしてキャリアを築いていますが、大学時代に触れた電子基板やFPGAの設計・開発経験は、今でも本当に価値のあるものだと感じています。本で知識を得るのと、実際に手を動かして経験するのとでは、「知見」の質が全く違うからです。電通大は、この「知見」の質を高められる場所だと思います。自分で研究計画を立て、あらゆるものを自分の手で用意して研究を進める。研究室で没頭したこれらの経験は、最先端の技術が変化していっても決して色あせることのない、大きな財産となっています。

電気通信大学キャンパス。研究室配属後は、多くの時間を研究室で過ごしていました(研究室は写真右側の建物)。

電機メーカーへの就職

 大学院卒業後、新卒でソニーに入社しました。配属された部署では、当時最先端だったワイヤレステレビの開発に携わりました。このとき初めて業務としてのソフトウェア開発を経験しましたが、チーム一丸となってモノづくりに没頭した経験は、今でも鮮明に覚えています。
 個々の技術は、知らなければ調べればいいですし、特定のシステムに関する知識は、周囲の人に聞けば学ぶことができます。AIによって学びの効率が格段に上がっている今、技術力そのものを強みとしていくのは難しい時代になっているのではないでしょうか。だからこそ、学ぶスピードや適応力、責任感や執着心といった力が、社会に貢献していく上で必要だと感じます。私の場合、この「モノ作りにおける執着心」こそが、大学時代に培われた、最大の強みかもしれません。
 ソニーで働いていたときは、転職など全く考えていませんでしたが、夫の転勤をきっかけにドイツへ転居することになりました。突然仕事を離れることになり大きな不安がありましたが、今振り返ると、この離職が、のちの大きなチャンスにつながったと思っています。

急に転機が訪れたドイツへの転居。価値観が大きく変わりました。

アプリ開発者として再スタート

 ドイツ生活も2年目に入った頃に、アップルが公開したiPhone SDKに興味を持ちました。友人の勧めもあり、アプリ開発に挑戦することにしたのです。当時は情報も少なく、Objective-Cという言語の開発書を手にしてゼロから学習するという苦労もありましたが、これが非常に面白く夢中になっていきました。SDK公開の翌年には、自分のアプリがApp Storeに並びました。ここからアプリ開発者としての道を歩み始めることになります。自分の知見を周りのデベロッパーに共有することを目的として書いていたブログをきっかけに、「iOS 5プログラミングブック(共著)」という開発本の執筆者の一人として関わらせていただきました。突然訪れた離職というピンチが、アプリ開発や本の執筆というチャンスに変わった瞬間です。本の執筆はこのあとも続き、全部で5冊の出版に至りました[*]。自ら決めた道だけを進んでいたら、この出会いはありませんでした。この経験から、何らか新しい変化を求められたときには、なんでも挑戦するようにしています。

初めて1人で一冊書き上げたときは、自ら書店を回り、ポップを書かせていただきました。

IT企業への再就職

 日本に帰国する少し前に娘を出産したこともあり、帰国後は再就職を考えず、しばらくはフリーランスとしてアプリ開発や本の執筆を続けていました。この時期に、出身の研究室である電気通信大学・高橋(弘)研究室と共同で、スマートミキサーを利用したアプリ「omoide」の開発もさせていただきました。
 しかし、フリーランスはフレキシブルな反面、コミュニケーションの機会が少なく、孤独感や力不足を感じることも多々ありました。そこで、チームで働く環境にもう一度身を置きたいと考え、再就職を決意しました。転職ではなく再就職なので、心理的ハードルがなかなか大きかったことを覚えています。でも、どうせ就職するならと、当時気に入っていた「マネーフォワード ME」のサービス作りに携わりたいと思い、マネーフォワードへの就職を決めました。
 再就職からすでに10年近くが経とうとしていますが、iOSエンジニアとして入社したものの、プロダクトの企画から開発部門のマネジメントまで、幅広く経験させていただいています。チャレンジを大切にし、成長を楽しむカルチャーに後押しされ、何年経っても「新たな経験」がなくなることはありません。現在は、エンジニア組織のマネジメントにフォーカスし、チームの力を最大化することを自分のミッションとして、日々、人との対話を大切に過ごしています。研究室時代に培われた、妥協せずにやりきること、「最後の詰め」を大事にする姿勢は、今の自分の仕事にも活きていますし、チームに伝える言葉にも、自然とその影響が出ているかもしれません。
 マネーフォワードでは、数年前からエンジニア組織のグローバル化・英語化を進めており、世界中から多くのエンジニアが集まってきています。マネジメントという役割を通して、グローバルチームを作り、チームとともに成長してきましたが、バックグラウンドや役割によらず、細部にこだわることができる人の強さをいつも感じます。社会に出ると、大学にいたときより圧倒的に時間的な制約が増えます。自分の考えに疑問を抱き、さらに深掘りして最適解を探していくような経験を、時間制約が少ない大学時代にできるだけ多く積んでいただき、自分らしさの根幹にしていけるとよいのではないかと思います。

家族との時間も「自分らしさ」を作り上げる大事なひとときです。

II類へようこそ

 選択を迫られたとき、どれだけ情報をかき集めても、本当の正解はわかりませんし、最後は決断するしかありません。大学受験、就職、転職など、人生には様々な選択がありますが、何が正解か(正解だったか)は誰にもわかりません。
 でも、過去は変えられませんが、未来は変えられます。選んだ道を起点に、「この道が一番だった」と思えるようにできるのは、自分自身なのだと思います。私の人生にもいくつかの岐路がありましたが、今振り返ると、今の自分が一番自分らしく過ごせているのではないかと思います。
 大学選びをしているみなさんには、ぜひ、「何を学ぶか」だけでなく、「どう学ぶか」「何を経験するか」も考えてみてほしいです。そして、そこで多くを経験する自分を想像したとき、ワクワクするかどうかを心に聞いてみてください。ワクワクしていれば、選んだその道を「一番」にすることができるでしょう。
 私が卒業した研究室は、電気通信学部・電子情報学科に所属していましたが、その後、改組があり、現在はII類に所属しています。電通大自体も世の中に合わせて変化してきていますし、II類には多くの経験ができるであろう魅力的なカリキュラムが多数並んでいます。経験は知識の何倍もの価値があると信じています。電通大を起点として多くを経験してきた私のエピソードが、皆さんの大学選びに少しでもお役に立てたら幸いです。

[*]
「iOS 5プログラミングブック」(共著)- 2012
「iPhoneアプリ開発エキスパートガイドiOS 6対応」(共著) - 2013
「上を目指すプログラマーのためのiPhoneアプリ開発テクニックiOS 7編」(共著) - 2013
「UIKit徹底解説」 - 2014
「Swift+Core DataによるiOSアプリプログラミング」 - 2016